395.だれかに伝える

395.だれかに伝える
「知的障害児者、発達障害児者 個性と可能性を伸ばす!」: 造形リトミック教育研究所

 中央線の中、ドアの上あたりに液晶画面があって、時折「大人の60秒講座」が流れます。クイズ形式なので、興味をそそられます。きのうは、
「江戸時代の火消しの仕事は、水で火を消すことともうひとつは何でしょう?」というものでした。

 もうひとつは・・・、隣家を壊すことだそうです。燃えやすい木造の家を壊すことで、延焼を防いだのだそうです。

 ふーん、そうなんだ、と知りました。そう感心すると、だれかに教えてあげたくなります。ちょっとしたことでも、知ることは楽しいですね。それをだれかと、また楽しめればもっと楽しいですね。クイズ形式であることもまた楽しめます。

 お子さんとそんな経験をしたら、いっしょにだれかに教えてあげましょう。
「江戸時代の火消しの仕事は、水で火を消すことともうひとつは何でしょう?」と今度は自分の口で、自分の言葉で、お父さんかお母さん、または兄弟にクイズを出してあげましょう。

 出来事を再生して語ることは、記憶の学習になります。まず、その場で聞いて(見て)記憶する。さらにだれかに語ることによって、記憶が確実になります。2度目の記憶は、いったん再生というプロセスを経た後の記憶ですから、いっそう記憶は確たるものとなります。

 さらに自分の言葉によって語ると言う能動的な行為を通して、いっそう記憶は確実なものとなります。

 昔ながらの子どものなぞなぞ遊びは、面白おかしく楽しみながらも、こんな記憶の要素を十分に含んでいるのですね。

「江戸時代の火消しの仕事は、水で火を消すことともうひとつは何でしょう?」、相手が「何だろう・・・?」と考えている数十秒間は、答を知っている者としてはちょっとした優越感も持てて楽しいものですね。

 相手が、わかったら「すごい!」とほめ、もしわからなかったら優しく教えてあげましょう。だれかに教えてあげることにも、たまには優越感を味わえますね。

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394.笑顔、気持を和める

394.笑顔、気持を和める
「知的障害児者、発達障害児者 個性と可能性を伸ばす!」: 造形リトミック教育研究所

 小田原の「寿獅子舞」、江戸期から受け継がれて来たと言われています。先日折あって、それを間近に見ることができました。この舞には、単純なストーリーがあります・・・、

・・・里に下りて遊びつかれた獅子が眠っているところにおかめとひょっとこがやってきました。打ち仕留めて食べてしまおうと相談して一撃を加えたところ、獅子を起こしてしまい、逆に獅子に追われて逃げていきました・・・(インターネット:寿獅子舞より)。

 現在の形に到るまでにはいろいろとアレンジもあったようですが、お囃子と掛け声と、獅子とおかめとひょっとこの滑稽な動きによる素朴な芸能です。

 それでも不思議と獅子頭や面をかぶり、それが動き出すと、そこには獅子やおかめ、ひょっとこが実在するかのように現れ出ます。面の不思議ですね。中でも最もインパクトがあったのは、おかめです。皆さんもご存知の、あの目を細めて口を吊り上げたようにして笑っているあのおかめ顔です。

 笑顔を見ていると、こちらも笑顔になります。生後間もない乳児でも、笑顔と怒り顔との弁別をしているという実験報告がありますが、私達は笑顔を見ると、気持も和むような学習をしてきています。しかもそれは、乳児の実験にもあるように、相当初期の時期から獲得しているようですね。

 教室に、人の顔はもちろん、動物であれ虫であれ、鳥であれ魚であれ、必ず「笑っている顔」にする生徒さんがいます。知的障害や発達障害を持つお子さんの多くは平和主義で、争いごとやマイナスの出来事を嫌います。通常以上に平穏への強い志向があります。環境が平穏であることによって、自己の平穏を保つのでしょう。環境の平穏に多少でも揺らぎがあると、自己の平穏も崩されやすいのです。

 おかめを見ていて、笑顔に感じ入る人間の作用に驚きました。そういう意味で、生徒さんも、笑顔の絵や写真を生活環境の目に見えるところにいつも貼っておかれたらどうでしょう。最近、無謀な交通行為を戒める目的か、隈取をされた怖い目の顔がよくバスの側面に貼られているのを見かけますが、ちょうどその逆です。

 気持を和ませてくれる笑顔を、いつも見えるところに貼っておきましょう。私達もなるべく笑顔を見せましょう。気持を和ませ、気持に働きかけるような笑顔を。来月は、そんな作品作りを試みてみましょうか・・・。

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393.知的障害:書字への導入(記憶)

393.知的障害:書字への導入(記憶)
「知的障害児者、発達障害児者 個性と可能性を伸ばす!」: 造形リトミック教育研究所

 この1週間は、書字について改めえ考えてきました。巧緻性と空間の把握(構成も含め)の両方の機能が保障されれば、文字を書くことはできます。ただし本当の意味でのひとり書きのためには、さらに文字を正確に記憶していることが必要です。

 巧緻性と空間の把握の機能が保障されていても、書くべき文字が頭の中になくては、ひとり書きにはいたらないからです。そこまででは、お手本を見て書くという模写の段階にとどまります。

 しかし、なぞることはできても模写することはできないというケースがあるように、なぞり書きと模写との間の壁は意外に高いのです。しかも、空間の把握ができていないということは、傍から認識されにくいために、そこで大きなつまずきやストレスを抱えて文字嫌いや学習ぐらいになるケースは残念ながらとても多いのです。ですから、月曜日から昨日まで触れてきた書字へのプロセスはとても重要なことです。

 それを踏まえた上で、本当のひとり書きへと進めるためには、1文字1文字を記憶していくことが必要です。「あを書きましょう」と言われて、「あ、あの文字だ」とわかって初めて、「あ」が書けるのです。

 こう考えてくると、日頃文字を書くという行為において、私達はいろいろな機能を働かせ、いろいろな作業を連動的に行っているということがわかりますね。知的障害や発達障害をもつお子さんに対しては、この緻密な作用を細かく分析して、一つ一つ保障していってあげることが必要なのです。これが、特殊教育です。私はそこに、特殊教育の面白みと誇りを感じるのです。

 さて、では文字を記憶するにはどうしたらいいでしょう。・・・書字のための巧緻性のトレーニングや空間認知のための学習をしている間に、文字の読み学習はどんどん進めていきましょう。

・五十音表を読む。
・「あひるの あ」「いちごの い」のように、基本単語と文字とを連動させてイメージで記憶していく。
・好きなものの名前と文字を関連させて、イメージで記憶していく。
・絵本の読み聞かせを通して、文字に触れさせる。
・興味のある看板やタイトルを通して、文字に触れさせる。

 決して強要せずに、生活の中で文字にゆっくりと十分に触れていくことです。まずは、文字があるんだ(文字の存在)ということに気づかせ、興味を持たせ、見慣れていく環境を作っておかれると良いと思います。文字を覚える、学習するという前のそんな素地作りを大切にしていきましょう。

 
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392.知的障害:書字への導入(空間認知)

392.知的障害:書字への導入(空間認知)
「知的障害児者、発達障害児者 個性と可能性を伸ばす!」: 造形リトミック教育研究所

 ひらがなの書字(模写)ができるための条件は、空間の把握と手指の巧緻性です。ここ3日間は空間把握のトレーニングについて考えてきました。巧緻性は、空間認知のトレーニングを通して養われます。巧緻性は、運動の要素が高いのでトレーニングすればするほど機能は高まります。

 また巧緻性の問題は、鉛筆の持ちかたが悪いとか、手指の動きがぎこちないとか、傍から見ていて捉えやすいものです。ですから、お子さんがまだ上手に文字が書けなくても、がんばっていることは認めてあげることができます。

 それに対して、傍から捉えにくいのが空間を把握する機能です。紙の真ん中に、またはマスの真ん中に縦線を書かせようとしても、とんでもないところに書くことがあります。「ちゃんと見てるの?」「よく見て!」と言いたくもなるような状況です。しかし、お子さんはちゃんと見ていないどころか、相当真剣に見ているのです・・・、でも真ん中がどこなのかがわからないのです。

 真ん中がわからなければ、上も下も、右も左も、ましてや斜めなんて、それを捉えるのは至難のわざです。

 そこを理解してあげることが、何よりも大切です。本人は一生懸命に取り組んでいるのに、「そこじゃないでしょ!」となると、鉛筆を紙面に下ろすこと自体が恐怖になります。まず、鉛筆を置く最初のポイントがどこなのか、それがわからないのです。

 お子さんを書字嫌いにさせないためには、そこのところを理解してあげることです。ひらがなでつまずくと、当然カタカナや漢字の書字でもつまずきます。せっかく持っている力を損なわないためにも、ゆっくりと上手に書字へと導いてあげましょう。

 書字の前には、絵、絵の前には基本描画、その前には彩色やなぐり描き、どれも書字へといたるプロセスの大切なステップです。あせらずに、お子さんと楽しみながら一つ一つのステップを進んでいきましょう。

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391.知的障害:書字への導入(円描)

391.知的障害:書字への導入(円描)
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 枠の中に十字形が描けるようになったら、今度は丸を描く練習をしましょう。なぐり描きがとても大切なプロセスであることは前にお話いたしましたが、これから練習する丸はなぐり描きとは少し区別してより形を意識して描けるように、大きな丸をトレースして描くことから練習を始めましょう。

 画用紙の中央にできるだけ大きな丸を太い線で描いてあげましょう。その上をくり返し、くり返し、トレースさせましょう。線からはみ出さないでトレースできるようになったら、丸をだんだん小さくしていきましょう。最初の丸の6分の1くらいの大きさまで小さくしていき、そのトレースができるようになったら、先に学習した十字形と組み合わせて、文字のトレースの学習に入りましょう。

 ひらがなの半分近くの文字は十字形を含んでいますが、それに加え、6割以上は丸(曲線も含め)を含んでいます。従って、十字形と丸が描ければ、ほとんどのひらがなは書けることになります。しかも、丸は多くの場合、縦線や横線、十字形とのつながりで書く場合が
ほとんどです。たとえば、「す」。十字形を描いてから丸を描き(回転)、下にすーっと伸ばします。

 ですから円描は、縦線、横線、十字形ほどには、ひとり描きの練習は必要とされません。もちろん、ひとり描きできるに越したことはありませんが。それよりも教室では、だ円や弧線を描く練習に進めることによっていろいろな形態の曲線が描けることようにと、書字プログラムを進めていきます。

 さあ、書字へのスタート!なぐり描き、縦線、横線、十字形、丸、曲線、ひとつひとつのプロセスに意味があります。楽しく、くり返しくり返し練習していきましょう。

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390.知的障害:書字への導入(十字形)

390.知的障害:書字への導入(十字形)
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 白い紙の上に縦線や横線が描けるようになったら、今度は縦線と横線を組み合わせて十字形を描きましょう。ひらがなの半数近くは、文字の中に十字形を含んでいます。なぐり描きを存分に行い、縦線描きや横線描きを十分に行ったように、十字形も楽しく楽に描けるようにくり返し練習しましょう。

 はじめに描いた横線が基軸となって、縦線の位置が決まります。十字形が描けるとは、まず十字形の形の把握ができて、その上でそれを再現できることです。十字形を描くなんてかんたん!と思われるでしょうが、書字へのつまずきを示すお子さんにはそこが難しいのです。十字形の横線は描けた、でも次の縦線の描き出しの位置がわからない。紙の上で迷子になってしまっているのです。

 十字形をどうにか描いているこんな段階で文字書きに進めてしまうと、本人は相当苦労をして文字を練習することになってしまいます。ともすると、書字嫌いになるおそれもあります。書字嫌いや漢字嫌いにさせないために、♪「よこたて、よこたて」といろいろな色のクレヨンで楽しくくり返し描きながら、十字形描に習熟させてあげましょう。

 この間、文字学習をしてはいけないということではありません。文字の読みを進めておくことは有効です。また、手を添えて、無理なく書かせることも有効です。無理さえさせなければ、お子さんの興味の向くままにどんどん進めてあげて全く構いません。

 しかし、なぞり書きや介助書きはできても、「ひとり書き」は難しいというケースがあるのです。空間の認知に困難を示すタイプのお子さんの場合です。本当に「ひとり書き」の機能を獲得させるためには、何もない空間に楽に十字形が描けるような、認知と巧緻性の機能を十分に保障していってあげることがとても大切なのです。

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389.知的障害をもつお子さんの書字への導入

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 今日は、関東地方も夕方から雪が降ってきました。さっと雪化粧した街路樹、街灯の中に白く舞う雪、車のフロントガラスに向かってくる雪、慣れないチェーンの音と振動を感じながら帰路につきました。やはり都心に住むものにとって、雪は日常の世界を一新する美しいものです。

 さて、お話は先週の続き、書字への導入です。なぐり描きをふんだんにくりかえして、紙面の中を自由に行き来できるようになったら、その中に中心を感じ、そこに縦線と横線を見出していくのが、次の一歩。つまり、書字への導入です。

 紙面の広さや限界(枠)を知ることと、中心を知ることは同時に行われます。枠と中心が定まって、はじめて「縦・横」いう方向性が得られます。縦線を1本描いてみましょう。介助でもいいのです。やさしく手を添えて、いっしょに描きましょう。

 そうしたら、その横に、その横に、と縦線を並べて描いていきましょう。紙の端まで行き着いたら、今度ははじめの縦線の反対側にも縦線を並べて描いていきましょう。反対側の紙の端に行き着くまで、描きつづけていきましょう。

 紙の中央がわかるようになってきたら、紙の中央に縦線を描きましょう。そうして、その縦線と紙の端の間に縦線をもう1本描きましょう。反対側にも同じように、さいしょの縦線と紙の端の間に縦線をもう1本描きましょう。

 クレヨンの色を替えて、それら3本の縦線と紙の両端の線の間に、「あいだに たーて」「あいだに たーて」と発声しながら、縦線を描いていきましょう。さらにクレヨンの色を替えて、それらのあいだに細かく、「あいだに たーて」「あいだに たーて」
と発声しながら、縦線を描いていきましょう。きれいな縞模様ができてきますね。これだけでも、りっぱなデザインです。

 同じように、横線でもやってみましょう。

 縦線を描いたり、横線を描いたり、書字へは程遠いとお感じかもしれません。焦る気持もわかりますが、このプロセス大切です。

 紙の上を自由に等分できてこそ、絵や文字のひとり描き(書き)へと成熟していくのです。デザインを楽しむような気楽な気持で、取り組んでいきましょう。

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388.知的障害をもつお子さんの文字学習

388.知的障害をもつお子さんの文字学習
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 きのう、このブログを訪れてくださった方の中にこんな関心がおありだったので、お答えしていきたいと思います。書字は、造形リトミックの教室でもっともお役に立てる課題のひとつです。「まだなぐり描きしかできないんです」とおっしゃって体験授業に来られて、その場で「たてせん」が描けるようなケースが少なくありません。

 まず、「なぐり描き」ができていることを評価しましょう。「なぐり描きしか」ではなく、「なぐり描きは、できるんです!」と肯定的に捉えていいのです。「なぐり描き」ができるというのは、

・クレヨンをしっかり持つことができているということです。
・紙に向かう姿勢の保持ができているということです。
・紙の中を自由に見渡すことができているということです(空間の把握)。
・同じく、紙の中を自由に見渡すことができているということです(視線の移動)。
・視線の移動に伴い、手を自由に動かすことができているということです(目と手の協応)。

 なぐり描きをしながら、お子さんはこのような数種類の機能のトレーニングを統合的に積み重ねていっているのです。お子さんが楽しんで自発的に行っているトレーニングですから、そのトレーニング効果は抜群です。なぐり描きを通してこれらの機能が十分に保障されることによって、書字にもスムーズに進んでいくことができます。

 来週は、なぐり描きから進めて書字への導入についてあらためて考えてみたいと思います。

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387.形のないものに言葉を

387.形のないものに言葉を
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 形のないもののひとつに、においがあります。きょう台所で手を洗ったら、いつもと違うハンドソープが置いてあったので、思わずそのにおいに惹かれました。いつもは無臭だったので、いっそうそのにおいに惹かれたのでしょう。

 においにスーッと引き込まれるとき、神経はそこに集中されます。いつも使わない脳を使っているようで、脳に良い刺激を与えることができたような満足感も持ちます。

 でも、それがどんなにおいなのか、説明しようとしても言葉を持ちません。ただ「いいにおい」と表現できるだけです。生徒さんが何か言おうとして言葉にならなかったり、作文を書こうとしても何て言ったらいいのか言葉が出てこなかったり、・・・そのときの生徒さんは、こんな気持ちなのかもしれません。

・言葉にして自らも確信を得たいのに、それができない。
・言葉にして誰かに伝えたいのにそれができない。
・言葉にして、誰かと共感したいのにそれができない。

 ワインのソムリエのような香りのプロは、香りについての固有の言葉を持っているそうです。香りを「ぬれた落ち葉」「秋の森」などに例えるのだそうです。コーヒーの味を評価するカッパーも、酸味を「アプリコット」「ブルーベリー」など多彩に表現するそうです
(読売新聞:2009年12月27日)。

 プロは訓練によって、香りや味について通常の人よりもその分野の脳の機能が高く、感覚が多種に分化しているのでしょう、そしてそれに伴う言葉をその数だけ有しているのでしょう。

 発達障害の生徒さんたちは、通常持ち合わせている感覚がうまく機能していないことがあります。ですから、当然それに伴う言葉を持ち合わせていない、ということがあります。それは、ちょうど私達がにおいや味に対する多種の感覚と言葉を持ち合わせていないのと重なるところがあります。

 ならば折に触れ、ひとつひとつの感覚に意識を向けられるように促し、それに伴う言葉を伝えていきましょう。私達は幼児期に基本的な感覚と言語を獲得していますが、それがまだ十分でないのなら、年齢に関係なく、生活の中の対象への感覚をていねいに育て、言葉を伝えていきましょう。

 教室でのテーマごとの学習は、いろいろな対象と向かい合うチャンスです。授業の後に、親御さんとお話をすると、親御さんも納得されてこう話してくださったそうです。今月のテーマ「カレー」の学習の後で、「そういえば、カレーの中に何が入っているなんて話したことないですね。ビーフなのか、ポークなのかか、チキンなのかなんてことは、もちろん。甘いのか、辛いのか、なんていうことも」。

 ただ一言で「カレーライス」と言ってしまうだけではなく、カレーの中にもいろいろな味やにおいがありますね。ちょっと気持ちにゆとりを持って、食卓で楽しく味わいながら、そんな感覚や言葉を育てていきましょう。

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386.カルタ、楽しんでますか?

386.カルタ、楽しんでますか?

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 今日食事をしていたレストランで、3、4才の女の子がお料理が届くまでの間カルタをしていました。「ここはお店だからね、カルタはお家でやるんだよ」というおじいちゃまの声かけにもがまんができず、テーブルいっぱいに広げてカルタが始まったのでした。

 お母さんが札を読み、女の子が一生懸命に絵札をさがします。横でおじいちゃまもヒントを与えながら応援しています。とてもほほえましい光景です。

 聞こえてくるのは、なにやら「ひらがなカルタ」のようです。正確な文は記憶していませんが、たとえばこんなふうです。
「あひるさん、ありとなかよく、あそんでる」「かささして、かめが からすとさんぽした」「たぬきが たくさん、たうえした」・・・のように、ひとつの音がつく3つの言葉で作られた文が読み札になっているのです。

 後ろのテーブルのご家族だったので、カルタの絵までは見えません。文を聞いて、どんな絵かなと想像しました。言葉は不思議なもので、聞くと意図しなくても頭の中には自ずと絵が描かれ、イメージが広がっているのです。長しかくの絵札の枠の中にカチッと想像の絵がはまっていきます。

 もし、実際に描いてみたら、想像しているのよりもはるかに詳細にイメージが具体化されるでしょう。
「どんなあひる?」「どっち向いているの」「どんな足?水かき?」「あり、どのくらいの大きさ?」「どんな顔?」「あそんでいる、どんなあそび?」「どこであそんでいるの?」「まわりの風景は?」「お天気は?」「色は?」・・・と。

 描くという作業は、言葉をより具体化することです。イメージの中では大まかであいまいだったものを詳細に一つずつ決定していきます。

 描くことは、言葉と映像を一つずつ対応させていきます。発達障害をもつお子さんの中には、言葉と映像がうまく結びつかないケースがあります。そのようなお子さんにとって、カルタは有効な教材となりますね。

 絵本にも同じような機能がありますが、カルタの方が絵も言葉も小さく短くまとまっているので、把握しやすいでしょう。限られた空間と限られた語数の中に一つの世界が描かれている、という面白みがあります。。

 発達障害を持つお子さん、カルタを楽しんでいらっしゃいますか?絵札の文字だけを見て、また絵札の一部だけを見て、カルタとりをしているのかもしれません。楽しめればまずはそれでいいのですが、できたら絵と言葉を結びつけてお話してあげましょう。

 あひるとありはバラバラにいるのではなく、「なかよく」「あそんでいる」のです。両者には、関係性があるのです。

「なかよく、あそんでいる」という言葉には、両者の関係性が語られているのですね。私達は、その言葉にその関係性をも自然に聞き取っているのです。発達障害を持つお子さんにとって、カルタがそんなことに気づいていくチャンスになるといいですね。

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