323.日常の言語~”しゃおっ”
「知的障害児者、発達障害児者 個性と可能性を伸ばす!」: 造形リトミック教育研究所
”しゃおっ”って、何のことでしょう。これは、揚げたてのえびフライを口の中に入れたときの音。生徒さんと、国語の教科書で読みました(光村図書中2)。三浦哲郎作「盆土産」に、こんな表現があったのです。三浦哲郎1931年生まれ、青森県出身の作家です。
このお話の舞台も青森県。素朴な家族のお話です。時は、昭和30年代くらいでしょうか。都会に働きに行っている父親(父っちゃ)が盆に休暇が取れて急に帰ってくることになり、そのことを知らせる便りに「土産にえびフライを買って帰る」と
あったのです。「えびフライ」と聞いても、話の中心人物である少年(おら)もその姉(あんね)も祖母(婆っちゃ)も、またその友達も、「えびフライ」がどんなものなのか見当がつきません。
見当がつかないだけに気になって仕方なく、つい「えんびフライ」と口に出てしまうほどです。分からないけど、「とびきりうまいものにはにちがいない」と、父の帰りを心待ちにしていました。そして父親が帰ってえびフライ揚げてくれた、
そのえびフライを食べたときの音が、”しゃおっ”なのです。
「えびフライ」という言葉だけ聞いて、そのものを知らない。そんな未知のものに対する想像力、期待、気持ちの高まりが実によく表現されているお話です。今の私達は、エビフライがどんなものだか知っています。しかし、このお話を読みながら、この少年といっしょに、「えびフライ」ってどんなものだろうかというように、想像を働かせていくのです。「とびきりうまいものにはにちがいない」というこの確信と共に。
エビフライのにおい、大きさ、長さ、太さ、ころもの具合、色、揚げたての熱々、油で光るエビの尾・・・、この想像のプロセスの終点が、この”しゃおっ”です。これまでの想像のすべてが、この”しゃおっ”に集約されています。未知だったえびフライが口の中に入ったときの食感です。読み手の口の中にも、”しゃおっ”という食感が広がります。あのにおい、旨みを追体験します。
夕方のお腹の空いている時刻に、このお話はたまりませんね。「あー、エビフライ、食べたい!」こんな気持ちでいっぱいになります。(実際、この間に2度、エビフライ、食べましたけど。すごい、誘惑です。)
言葉の力はすごいですね。言葉の力を生徒さんと共感、共有していきたいと思います。発達障害の生徒さんは、言葉の感性が乏しかったり、言葉の意味の把握が難しかったりということがありますが、私達の言葉の感性はどうでしょうか。
雑事に追われる日常では、私達の言葉も単に道具としての言葉、記号としての言葉になってしまっているようなことはないでしょうか。
気持ちの動きや揺れ、感性や感動、魂が伴うような言葉を私達が発し、投げかけることによって、生徒さん、お子さんの言葉も本来的なものとして育まれていくことでしょう。日常のほんの束の間でも、そんな言葉のやり取りを持ちたいものですね。
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