312.好きこそものの・・・(2)
「知的障害児者、発達障害児者 個性と可能性を伸ばす!」: 造形リトミック教育研究所
(つづき)ここでこんなお話をするのは、先日土曜日の授業で、そんなことを改めて認識したからです。
教室の一人の生徒さん、長年気に入っているアニメがあります。アニメの中のせりふを諳んじてしまうほどです。今ではそのアニメを話題にすることによって、時に不安定になった心理状態を回復させたり、気持ちを切り替えたりすることも出来ます。また、アニメの主人公への感情の移入によって、自らの感情も育まれていっているです。
今、授業では「人物」をテーマに絵画に取りくみ、粘土では「女の子」を作っています。自分自身を作るつもりで取りかかったのですが、形を作っている間に、その生徒さんの中でその女の子は大好きなアニメの主人公になっていっていきました。
主人公の名前を口にし、「かわいい」と言いながら制作しています。それも、こちらに話しかけ、同意を得ようとしているような言い方です。ですからこちらも、「ほんと、かわいいわね」と自然に応えます。
オーム返しがあったり、脈絡のない言葉が飛び出すような傾向のある生徒さんですが、この「かわいい」は自分の気持ちや意を言葉として発しているものです。イントネーションや表情から、それがわかります。粘土成形しながら「りぼん」「赤」と、さらに自分の意向を表現して伝えてきます。髪の毛には、赤いリボンもつけよう、ということです。
ならば、その主人公を描いてみようと、大きな画用紙での絵画にも取り掛かかりました。絵画でもやはり、「○○ちゃん」と主人公の名前を言いながら。まず、顔のまるをていねいに描きました。首、からだ、手足、顔の部位、といつになくゆっくり(適度なテンポで)納得しながら描いていきました。
この生徒さん、クレヨンで描いたり、絵の具で塗ることは幼児の頃から好きでした。「うさぎ」「ねこちゃん」「りんご」・・・と描くものへの興味もありましたが、それよりは、クレヨンでとにかく描く、筆を動かしたら色がついた、一部の隙間が出来ることも許さず、完璧に塗りつくす、それが出来上がったら満足するといった傾向のほうが強かったように思います。
線があれば、とにかくなぞる。テキストの問題文までなぞってしまうほどです。とにかく、「線・形・文字」=「なぞる」、というように反応してしまうのです。
ところが、その日の描画は違っていました。「大好きな○○を描く」「○○を描くことがうれしい」といった描きようだったのです。「課題にはしっかり取り組む」という生真面目な表情ではなく、本当に心が動き、心の動きが描画となっているといった感じです。
中等部に進級して、学校での生活も穏やかに行われているのでしょう、これまでの学習の積み重ねなどちょうど良い状況や条件が相俟って、今何かが変わりだしたようです。
好きこそものの・・・、この大好きなアニメがそのきっかけとなっていることは
まちがいありません。本人の好きなものをご家庭はじめ、周りの方々が大切にしてきてあげたからこその、成長です。
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